2017年・読書の旅
初めに
2018年、平成最後の年が早くも上半期終了というところに来ています。皆さん読書はされますでしょうか?(唐突)
今回は週に一冊読み終えれたら上等、というレベルの遅読家である私が去年、即ち2017年にちゃんと読み終えることができた本の、その概要と感想、面白さを列挙します。ちなみにその年に読んだものは全部で38作品。書籍として単独に出版されたものは34冊でした(つまり、リストには雑誌に収録された短編などが含まれています)。
目次
1『頼むから静かにしてくれ Ⅰ』レイモンドカーヴァー,村上春樹訳2『職業としての小説家』村上春樹4『ライト・グッドバイ』 東直己5「秘密は花になる。」舞城王太郎6『流れよわが涙、と警官は言った』P.k.ディック,友枝康子訳 9『一九八四年』ジョージオーウェル,高橋和久訳10『みんな元気。』舞城王太郎12『ザップ・ガン』P.k.ディック,大森望訳13『自我論集』S.フロイト,中山元訳14『武器よさらば』ヘミングウェイ,高見浩訳15『頼むから静かにしてくれ Ⅱ』レイモンドカーヴァー,村上春樹訳19『風と光と二十の私と・いずこへ』坂口安吾20『やさしい女・白夜』ドストエフスキー,井桁貞義訳21「ナイス・エイジ」鴻池留衣24『暗闇のスキャナー』P.K.ディック,山形浩生訳27『銃』中村文則30『雪国』川端康成33『戸籍アパルトヘイト国家・中国の崩壊』川島博之34『みずから我が涙をぬぐいたまう日』大江健三郎35『図解 哲学がわかる本』竹田青嗣 監修37「陋劣夜曲」西村賢太
【面白さ】を以下の基準でランク付けします。
A. 最高程度に、語りたくなるくらい面白い。
B. 文句なしに面白い。
C. まあ面白い。読んで損はない。
D. 懸念もあるがよし。読み返すことはない。
E. 読むに費やした時間を少し後悔するレベル。お勧めはできない。
*評価は文学やものの価値について一切の知識を持たない素人の直感によるものであることをご考慮いただければ幸いです。また一部の著書については、「面白さ」という表現が相応しくないものがあり、それについては評価をしておりません。
それでは拙評をどうぞお楽しみください。
1.『頼むから静かにしてくれ Ⅰ』レイモンド・カーヴァー,村上春樹 訳
【面白さ・C】 村上春樹が尊敬しているらしいアメリカの小説家、レイモンド・カーヴァー(1938-1988)の短編集、奥さんと仲の悪い旦那さんの話が多い。「60エーカー」という、先祖代々の土地と誇りに固執するネイティヴアメリカンの話がなかなか渋くてよい。基本的に暗い話が多いが、村上春樹の各話解説があり、村上ファンにはそこが嬉しいかもしれません。
- 作者: レイモンドカーヴァー,Raymond Carver,村上春樹
- 出版社/メーカー: 中央公論新社
- 発売日: 2006/01/01
- メディア: 新書
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2.『職業としての小説家』村上春樹
【面白さ・B】 言わずと知れた名作。田舎に虫取りにいった都会人の男が、村人に騙されて砂で覆われたボロ屋に女と二人きりで放り込まれるという意味不明な展開から生まれるエロさが絶品の一冊。現代社会のなにやらが暗喩的に表現されているらしいですが、そんなこと分からずとも十分にシコれるレベルにエロい。
安部公房についての個人的な思い出は、高校時代の現国の教師が、「安部はな、ノーベル文学賞とるかどうかの男だったんだ。死ななきゃとれた」と言っているのを聞いて、「結局とれてねーじゃねーか」とか思っていた程度でした。
4.『ライト・グッドバイ』 東直己
【面白さ・-】 映画(「探偵はBARにいる」)でおなじみの「ススキノ探偵シリーズ」の8作目。北海道の歓楽街ススキノで、違法行為と探偵業の二足のわらじで生計を立てる北大哲学科出身のチンピラ中年男性の活躍を描いた作品。実はこの文章を書いた一年と半年前ほどに読んだものなので、申し訳ないが全く内容を覚えていません。でも安定して面白いシリーズなのでおすすめです。
ライト・グッドバイ―ススキノ探偵シリーズ (ハヤカワ文庫JA)
- 作者: 東直己
- 出版社/メーカー: 早川書房
- 発売日: 2007/10/01
- メディア: 文庫
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5.「秘密は花になる。」舞城王太郎
【面白さ・-】 最近(?)活躍がめざましい舞城王太郎の短編。文芸誌「新潮」の2017年2月号に掲載された作品。残念ながらこちらも内容を忘れてしまっています。
舞城は読みやすいのと、(最近の作品は)割とわかりやすい物語が多いのが良い作家です。物語的な盛り上がりを重視した展開をよく使うので、短編でもしっかり面白い小説を書くひとです。僕は好きです。オススメは『土か煙か食い物』「熊の場所」「スクールアタック・シンドローム」『淵の王』です。
6.『流れよわが涙、と警官は言った』P.K.ディック,
【面白さ・D】 タイトルと早川版の表紙がクッソかっこいいことでおなじみのディックですが、本編については微妙なところが多いです。というか展開が唐突なのでめちゃくちゃ読みにくいです。それでもこちらはかなりマシなほう。あとにも出てきますが『ザップ・ガン』は本当に許せないレベルでした。
本作は、世間に超能力者である正体を隠しながら生きる人気エンターテイナーが、自分の存在を完全に抹消された世界に転移してしまう。という強い不安を読者に常に感じさせる構造。物語の、人間的な盛り上がりはラストの上級警官が涙するシーンだけなので、長さの割には物足りなく感じました。
- 作者: フィリップ・K・ディック,友枝康子
- 出版社/メーカー: 早川書房
- 発売日: 1989/02/01
- メディア: 文庫
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7.『神の子どもたちはみな踊る』村上春樹
【面白さ・C】 村上春樹の短編集。1995年(阪神淡路大震災、オウム真理教の台頭)を受けての作品が多く、どこか寂し気な雰囲気が一貫してあります。表題作・「神の子どもたちはみな踊る」と「かえるくん、東京を救う」が非常に印象的な物語で、特に「かえるくん」の結末には、村上の世界観というか、「世界は救われるべきである」という「願い」を味わうことができます。
【面白さ・D】 村上の割と最近の長編。出版時はいつも通り騒ぎになってましたが、全体の完成度ではもう一つでした。会社勤めの中年の男が、大学時代の初めに、高校の頃からの付き合いである親友四人に突然の絶縁を突き付けられたことについて、その真相を探るため、大人になった親友たちに会いにいくという物語。個々の挿話は面白い(村上春樹のたいへんよいところです)が、結末とそのまとまりについて考えると、「村上春樹」への期待がもともと高いのも相まって微妙、という感じでした。
9.『一九八四年』ジョージ・オーウェル,高橋和久 訳
【面白さ・C】 ”
- 作者: ジョージ・オーウェル,高橋和久
- 出版社/メーカー: 早川書房
- 発売日: 2009/07/18
- メディア: ペーパーバック
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10.『みんな元気。』舞城王太郎
【面白さ・C】 舞城王太郎の短編集。個人的に、舞城小説の特徴は著しい口語調とぶっとんだ物語展開、そしてどこか説教じみた哲学の語りにあると(私は)考えていますが、本書でもそういったものを存分に味わうことができます。最後に収録されている作品、「スクールアタック・シンドローム」は伝染してゆく衝動的な暴力をテーマに、大変興味深い作品になっていて面白いです。読みやすい小説が多いのでオススメ。
【面白さ・D】 村上春樹の長編小説。中年男性が人生の成功を味わいつつも、どこか物足りないところに幼馴染だった女性と再会し、昔を思い出しながら彼女と通じあうという内容(うろ覚え)。比較的地味な印象の作品。
『ねじまき鳥クロニクル』の前半をカットして単品に仕上げたものと聞いて読んでみたけど、これ自体は『クロニクル』とは違って割とリアリズム的。読み返すことはないかもしれないが、もう少し経ってから読み返せば、なにか良さが分かる気がするような一品。タイトルは確か、なにか洋楽からの引用だったような。
12.『ザップ・ガン』P.K.ディック,大森望訳
【面白さ・E】 当該年のワーストワンにして、オールタイムワースト小説の『ザップ・ガン』です。「ディックは映画はクッソ面白いし、『わが涙』も結構よかった気がするから、いけるやろ」と市営図書館で手に取ったのが運の尽き。文庫本ですが文字が小さいし、結構分厚いしで読むのに時間がかかりました。
冷戦体制下の近未来で、米国のサイコ能力による武器デサイナーをしている主人公が、宇宙人の襲来(たしかそう)に対抗するため、ソ連側の美人女武器デザイナーと協力して最強の兵器「ザップ・ガン」を作り出すという内容。いま書き出すと「あれ? 面白かったかな?」と一瞬思いましたが、とにかく長くてわかりにくい。
私の読んだものには、巻末付録として、ディック自身による作品評価の短文がいくつかあるのですが、そこで作者自身が「『ザップ・ガン』はクソだ」みたいなことを言っていたのを、読んでガン萎えした記憶があります。
【面白さ・-】おなじみ、精神分析の開祖・フロイトの論集。多くの哲学者・思想家の著作について言えることだと思いますが、いきなり本人のものを読むのはオススメできません。意地で読んでも内容は理解できないので辛いです。それでも感想の述べるとすると、「快感原則の彼岸」(論文のタイトルです)は、フロイトの後期欲動論・エロスとタナトスが生まれる過程を見ているようで、なかなかアツイです。
【面白さ・D】 ノーベル文学賞を受賞した米国の作家・ヘミングウェイによる長編小説。第一次大戦で軍医としてイタリア軍(たぶんそう)に参加した若者が看護婦のねーちゃんと仲良くなって、最後はボートで戦線を逃げ出す話。前線の「いつ死んでもおかしくない」という切迫と、ラストの静謐な雰囲気は非常に見事に描かれていますが、小説として飽きのない面白さがあるとは言えない出来。読みにくく冗長ともいえます。文学についての教養や磨かれた感性が必要なのかもしれません。私にはあまり理解できませんでした。
- 作者: アーネストヘミングウェイ,Ernest Hemingway,高見浩
- 出版社/メーカー: 新潮社
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- 作者: レイモンドカーヴァー,Raymond Carver,村上春樹
- 出版社/メーカー: 中央公論新社
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フロイトの精神分析 (図解雑学-絵と文章でわかりやすい!-)
- 作者: 鈴木晶
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村上春樹全作品 1990~2000 第6巻 アンダーグラウンド
- 作者: 村上春樹
- 出版社/メーカー: 講談社
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*リンクの角川版には「象を撃つ」は収録されていないようです。ご注意ください。私が読んだものは「角川文庫クラシックス」というレーベルから1998年に出たものでした。
百年の孤独 (Obra de Garc´ia M´arquez)
- 作者: ガブリエルガルシア=マルケス,Gabriel Garc´ia M´arquez,鼓直
- 出版社/メーカー: 新潮社
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- 作者: ガブリエルガルシア=マルケス,鼓直,木村栄一
- 出版社/メーカー: 筑摩書房
- 発売日: 1988/12/01
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総評
以上が2017年に私が読んだ作品の全てです。いかがでしたでしょうか? 読んだ本をメモったりその感想を書いたりするのは、今回が初めてのことでした。
やはり『海辺のカフカ』と『百年の孤独』に当たれたのは大変ラッキーだったと思います。この年は他にも、『カラマーゾフの兄弟』『地下室の手記』(ドストエフスキー)や『夜間飛行』(サン・テグジュペリ)、『善の研究』(西田幾多郎)などにも挑みましたが、途中でギブアップしました。もう読書を趣味と騙るのはやめておこうかなと考えております。
また、「一週間かけて読んだ本の内容を完全に忘れていることがある」という事実を本稿の執筆にあたって突き付けられたのは、個人的にクる事実でした。でもしょうがないですよね。簡単に忘れられる内容の本を書いたという意味では、責任は作家さんサイドにあるのではないでしょうか(不遜)。
ここまで読んでいただけたことにお礼申し上げます。もし記述に何か間違いがあれば指摘していただければ幸いです。それでは。